家の鍵をすべて紛失してしまった、あるいは、中古で購入した家具に鍵が付いていなかった。そんな、元となる鍵(元鍵)が一本も手元にないという絶望的な状況でも、プロの鍵屋に依頼すれば、新しい鍵を作り出すことが可能です。しかし、この作業にかかる時間は、元鍵がある状態からの「複製」とは、全く次元が異なります。その所要時間は、状況によって大きく変動しますが、最低でも「30分から1時間」、複雑なケースでは「数時間」に及ぶことも覚悟しなければなりません。なぜ、これほどまでに時間がかかるのでしょうか。その理由は、この作業が、形をコピーする「複製」ではなく、鍵穴の内部構造を解き明かし、ゼロから鍵の設計図を作り上げる「新規作成」だからです。鍵師が行う主な作成方法は二つあります。一つは、「キーナンバーからの作成」です。鍵や錠前本体に刻印された製造番号(キーナンバー)が分かれば、それを元にメーカーのデータベースを照会し、正確な鍵を削り出すことができます。この方法であれば、比較的スムーズに進み、30分程度で完了することもあります。しかし、キーナンバーが不明な場合は、もう一つの方法、「鍵穴からの作成」という、まさに職人技が必要になります。鍵師は、特殊なスコープで鍵穴の内部を覗き込んだり、繊細な工具を使って内部のピンの高さを一つひとつ測定したりして、鍵山の形状を割り出していくのです。これは、非常に高度な集中力と、長年の経験が求められる繊応な作業であり、多くの時間を要します。特に、ディンプルキーのような複雑な構造の鍵では、作成の難易度はさらに上がり、かかる時間も長くなります。元鍵がない状態からの鍵作成は、緊急の出張サービスで依頼することがほとんどです。その場で、根気よく作業が完了するのを待つ必要がある、ということを、あらかじめ理解しておくことが大切です。
【元鍵なし】鍵作成にかかる時間、それは「複製」ではない