我が家は築二十年ほどのありふれたマンションの一室です。数年前、同じマンションの別の階で空き巣被害が発生しました。警察の方の話ではその手口は玄関ドアの郵便受けから工具を差し込んで内側の鍵を開ける「サムターン回し」であったとのことでした。その話を聞いた時、私は他人事ではないと強い不安を覚えました。なぜなら我が家の玄関ドアも全く同じ構造だったからです。かといってすぐに高価な防犯システムを導入するほどの経済的な余裕はありません。何か自分たちの手でできることはないだろうか。そう考えた私は妻と共にホームセンターの防犯コーナーへと向かいました。そこで私たちの目に留まったのが千円ほどで売られていた両面テープで貼り付けるタイプの「サムターンカバー」でした。「こんな簡単なもので本当に効果があるのだろうか」。半信半疑でしたが値段も手頃だったため、私たちは藁にもすがる思いでそれを購入しました。帰宅後早速説明書通りに取り付けてみると、思った以上にしっかりと固定されつまみを回すためにはカバーの側面にあるボタンを強く押さなければなりません。これは一本の工具で操作するのはかなり難しそうだ、と直感しました。たったこれだけの簡単な対策でしたが、私たちの心にもたらされた安心感は金額以上の大きなものでした。そしてその数ヶ月後。私たちのマンションで再び空き巣未遂事件が発生したのです。狙われたのは我が家の二軒隣の部屋でした。犯人はやはり郵便受けから工具を差し込んだようですが、その家の頑丈な補助錠に手間取り結局侵入を諦めて逃走したとのことでした。その話を聞いた時私は背筋が凍る思いがしました。もしかしたらあの日犯人は我が家を先に下見に来ていたのかもしれない。そして郵便受けから中を覗き込みあのささやかなサムターンカバーの存在を見て、「この家は面倒だ」と標的から外してくれたのかもしれない。真実は分かりません。しかしあの日の千円の投資が今も私たちの平穏な日常を静かに守ってくれている。私はそう信じています。
我が家を守ったサムターンカバー